吉野山で炎となって消えた鬼
どんな伝承か
『宇治拾遺物語』は、宇治の平等院の南泉坊で往来の人々に昔話をさせて書き留めたものとされ、鬼の姿がくっきりと描かれる。巻十一では、日蔵上人が吉野山で身の丈七尺ほどの鬼に出会った。体は紺青、髪は火のように赤く、首は細く胸骨が突き出し、腹は膨れて脛は細い。その鬼はさめざめと泣き、四、五百年前は人間だったが、人を恨んで鬼になったと打ち明ける。仇を殺し、その子孫を玄孫まで殺し尽くしたのに、憤りはつのるばかりで死ぬこともできない。敵の子孫は尽きたが自分の命には果てがないと泣き続けた鬼は、やがて自らの怒りの炎に包まれて燃え尽きていった。
原典より
鬼は、既に鬼であることが耐え切れないほど辛く、さめざめと涙を落すよりほかないのである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。