富士の裾野に響く曾我兄弟の怨霊
どんな伝承か
『曾我物語』は富士山の見える土地、とくに箱根を中心とする東国の物語で、曾我十郎祐成・五郎時致兄弟の仇討を主題とする。幼い一万と箱王は、伊豆の赤沢山の麓で工藤祐経の手の者に父河津三郎を討たれ、九つと七つの秋の月夜に仇討を誓った。箱王はのちに箱根権現で学ぶ。建久四年五月二十八日、兄弟は富士の裾野の狩場で本懐を遂げたが、十郎は討たれ、五郎も捕らえられて殺された。その後、裾野には兄弟の名乗りと戦う物音が昼夜絶えず、聞いた者は死ぬか狂った。頼朝が上人に弔わせ、兄弟を神として祀ると怨霊は鎮まったという。仇討の日に降る雨は「曾我の雨」と恐れられた。
原典より
常に、富士山の見える地域と密接にかかわりあっているのが『會我物語』の持色であり、つまりは、地域的には箱根を中心とする物語なのである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。