鬼越に立ったまま絶命した霊馬
どんな伝承か
盛岡やその近在の村々では、五月節句の日に自家の馬を五色の長い布で盛装させ、鳴る鈴を数多く結びつけて、岩手郡の鬼越の蒼前様に参詣する行事があり、南部の名物の一つとなっている。昔、慈悲の心の乏しい長者があって人馬を虐使していた。或る時、御駒神の神霊が馬に化してその虐使を受けていたが、五月節句にも休ませなかったので、霊馬はたちまち暴れ出して疾風のように駈け去った。背に一人の異人が立つのが見え、その馬は鬼越の地で立ったまま絶命した。そこに蒼前社を建てたのが起こりだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。