貝殻淵の異界と二度なりの栗
どんな伝承か
山口村の和賀川の流域に貝殻淵があり、その少し下流に御前淵がある。昔、田代六処の村人がこの淵の上で木を伐っていて斧を落とし、拾おうとして淵に入ると、思いがけず広い野原に出た。壮麗な御殿の庭に一人の美しい女が立ち、木を損ない騒がすなと戒めて斧を返し、栗の実を数粒くれた。門脇には和賀殿の家に事変のあるとき打つ太鼓があった。女に送られて門を出ると、もとの淵の岸辺であった。この栗を領主和賀殿に献じて植えたのが、今ある二度なりの栗の木だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。