先回りする蒼前様の御神体
どんな伝承か
正徳何年とかのこと、八條流の馬術の達人似鳥越後家久の五代の孫にあたる者が、伝書一切を灰燼に帰してしまった。同人は深くこれを遺憾として鬼越の蒼前社に参籠し、自ら書写した。百日の満願の朝、社前の路傍の草の中に光り輝いている物があるので近寄って見ると、蒼前様の御神体であった。大変恐懼して拾い上げ、御堂に納めた。伝書の書写もこの日をもって終わったので喜んで帰宅すると、不思議にも先ほど自分の手で御堂に納めたはずの御神像が、自分より一足先に来て玄関に坐っておられた。驚いて鬼越の御堂に捧持したが、家に帰るとまた玄関に来ておられる。こうしたことが数回に及んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。