白水しか湧かぬ矢次の井戸
どんな伝承か
紫波郡煙山村に矢次という部落がある。この部落では昔から井戸を掘っても良い水が湧かなかった。その訳は、昔、弘法大師がこの地に巡錫された折、一農家に立ち寄って水を乞うたところ、その家の主婦が面倒くさがって白水を汲んで与えたため、罰が当たって今でも白水ばかり湧くのだという。同じ郡の佐比内村細峰にも、土用と寒中には一滴の水もなくなる水無しという川があり、これも弘法大師が水を乞うたとき、機を織っていた女が水はないと答えたため、大師が錫杖を川に突き立てたからだと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。