鶏頭の花に大豆が実った奇蹟
どんな伝承か
明治十五年頃、伯耆国久米郡倉吉町に暮らす老夫婦がいた。弘法大師を篤く信じる夫は、その夏仏前に供えるため庭の一角に鶏頭の種をまいたが、妻は何の得にもならない、豆でもまけばよいと責め立て、口論が絶えなかった。ある日、言い争う二人の家の前にみすぼらしい法衣の老僧が立ち寄り、どちらの言い分にも理があるから待っていればよい兆しがあると諭し、西岩倉町の者だとだけ告げて去った。やがて咲いた鶏頭の花のまわりに莢が生じ、立派な大豆が実った。夫婦はあの僧を岩倉町の吉祥院の大師の化身と信じ、その豆を吉祥院へ奉納したという。
原典より
そののち、しばらくすると、鶏頭には美しい花が咲いたが、不思議や、数日をたつと、その花のまわりに、豆の莢のようなものが沢山生じて来た。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。