岩から湧く酒と酒屋長者
どんな伝承か
昔、岩泉の里にひどく貧しい親子があり、子は二歳で父を、十三で母を失って近所の百姓の家に世話になり駄賃づけをしていた。大の酒好きで、冬の夜に町から酔って帰る道すがら、小松の枝の雀を一羽ずつ生呑みにし、家で吐き出すと雀は生きて飛び去った。また馬の背を痛めると叱られた折、自分は一文の銭も貰わぬが酒は山沢にも湧くと言い張り、主人を山へ案内した。岩の間から湧く泉はまことに佳い酒であった。主人は酒屋を始めようとしたが、桶に汲めばただの水に返り、若者が飲めば酒になる。主人は店も道具も譲り、若者はそこで酒屋長者となった。それが今の岩泉の里だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。