薬草で退けられた沼の鰻男
どんな伝承か
或る時、雫石村の或る所に美しい娘があった。年頃になると毎夜どこからか一人の男が通って来たが、名も素性も言わなかった。或る夜、親たちが家の軒下で囁く声を聞くと、一方が人間の胎内に子種を下したと言い、他方が、五月節句の五色の薬草を煎じて飲ませられれば腹の子は水になると言った。両親は驚いて娘にその薬草を煎じて飲ませ、娘は何事もなく済んだ。夜ごと通って来た男は近くの沼に棲む古鰻で、後に見ると戸の桟に鰻の脂がついていた。岩手郡雫石村のヌマガヘシという所の出来事で、昔この辺に沼があったと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。