竜神の瓶から生えた灸の蓬
どんな伝承か
或る所に一人の男がいて、毎日何もせず渚に出て海ばかり眺めていた。或る日、海から竜神が現れ、一個の瓶を与えて、この水は万病に効く霊薬だから、これからは万人を救えと言った。男は瓶を土蔵の奥に秘め、村に病人があればひそかに水を汲んで与えた。妻はこれを怪しみ、留守に土蔵へ入って瓶を覗くと自分の顔が映ったので、夫は女の顔を見に通うのだと嫉妬し、瓶を真っ二つに割った。男は破片を拾って古池のほとりへ棄てた。翌日また竜神が現れ、棄てた所に見慣れぬ草が生えているから蔭干しにして揉み、人の病を治せと教えた。それが灸の始まりで、草は蓬であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。