一段聞いてから行くと答えた狐の義太夫
どんな伝承か
海尻の倉兄が、婚礼の買い物のため里へ下ったときの話である。当時は海尻や下の深山で石灰を焼き、それを千曲川沿いの田所へ運ぶ駄賃づけの仕事が盛んだった。芦平の田中駒作が石灰を積んで宮下神社近くの宮上にさしかかると、木立の下に人影がある。近づけば倉兄で、旅人が炉端に草鞋を立てかけるような格好で、何かを熱心に聞き入っていた。声をかけると、慌てるな、あと一段聞いてから行く、と落ち着いて答えたという。狐の語る義太夫に聞き惚れていたのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌)
『南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話』は、長野県南佐久郡の郡誌民俗編から、第十三章「伝説と歌謡」の昔話・伝説・世間話の部分を収めたものである。郡内に伝わる鳥呑み爺や古屋のもりなど十一話の昔話、離山・白駒の池・おかんばあさんなどの伝説、光り物・あずきとぎ・天狗・かっぱ・狐火・家つき童子などの世間話を集める。伝説の後半には藤沢衛彦編『日本伝説叢書・信濃の巻』から佐久に関わる話を原文のまま引き、世間話は話題ごとに体験談を並べる。