見越しが出る下の深山の絶壁の夜道
どんな伝承か
国鉄勤めのころ体をこわし、しばらく踏切番をしていた人の話である。終列車を見送って一服し、十時ごろ帰途についた。道筋にあたる下の深山は千曲川の絶壁沿いで、東には秩父古生層の岩盤が迫り、西は八ヶ岳の台地が崩れて南牧湖の決壊した跡である。この谷底の道は、夜に通るとよく見越しが出るといわれてきた。歩けば十五分の道に三、四時間もかかり、十本あった煙草は二本しか残っていない。右は落ちれば命のない川岸、左は登れぬ山であった。下駄の素足に露がかかって、ようやく道端に出たと気づいたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌)
『南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話』は、長野県南佐久郡の郡誌民俗編から、第十三章「伝説と歌謡」の昔話・伝説・世間話の部分を収めたものである。郡内に伝わる鳥呑み爺や古屋のもりなど十一話の昔話、離山・白駒の池・おかんばあさんなどの伝説、光り物・あずきとぎ・天狗・かっぱ・狐火・家つき童子などの世間話を集める。伝説の後半には藤沢衛彦編『日本伝説叢書・信濃の巻』から佐久に関わる話を原文のまま引き、世間話は話題ごとに体験談を並べる。