月夜の蕎麦畑を川と思い込んだ男
どんな伝承か
夕食を終えて家族が話していると、海尻から越えてくる小さな峠のあたりで人を呼ぶ声がした。外へ出ると、湖を渡って助けを求める叫びが届く。近所の四、五人で駆けつけたところ、男は蕎麦畑の中を行きつ戻りつしていた。男の話では、峠に登ると月明かりに湖が光り、森は黒く映え、八ヶ岳や浅間山まで見えるので腰を下ろして休んだ。立ち上がって歩き出した途端、深い川にはまり込んで出られなくなったのだという。花盛りの蕎麦が水のように白く光り、夜露が素脛に冷たく触れたので、川と思い込んだのだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌)
『南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話』は、長野県南佐久郡の郡誌民俗編から、第十三章「伝説と歌謡」の昔話・伝説・世間話の部分を収めたものである。郡内に伝わる鳥呑み爺や古屋のもりなど十一話の昔話、離山・白駒の池・おかんばあさんなどの伝説、光り物・あずきとぎ・天狗・かっぱ・狐火・家つき童子などの世間話を集める。伝説の後半には藤沢衛彦編『日本伝説叢書・信濃の巻』から佐久に関わる話を原文のまま引き、世間話は話題ごとに体験談を並べる。