猫が口をきいた話
どんな伝承か
爺さんと婆さんと娘だけの家で猫を飼っていた。爺さんが留守番をし、婆さんと娘は義太夫を聞きに行って留守だった。爺さんが「タマえ、今夜は婆さんと娘が義太夫を聞きに行ったが、何を語るかな」と言ったところ、「お染久松」と答える声がした。誰もそこには居なかったのに確かにそう言ったのである。そのへんで婆さんに会って聞いてみると、やはり語られたのは「お染久松」であった。それで恐ろしくなってしまったという話をしたものだ、と話者は語る。だから猫はあまり長く飼うものではない、化けるから、と言われている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
向原の民俗 上――昔話・伝説・怪異(民俗調査報告 第9号・第10号・民俗調査報告)
『向原の民俗 上――昔話・伝説・怪異』は、民俗調査報告の第九号・第十号にあたる向原の民俗誌の上巻から、「IX 口承文芸」の章を収めたものである。昭和五十六年から五十七年にかけて向原の話者から聞き書きした昔話十一話、伝説二十四話、天狗や狐、河童、ヒトダマをめぐる世間話二十七話のほか、富士山にまつわる諺と方言を収める。各節の初めに題名・分類・話者の生年・採集日を記した分類表を置き、話は土地の言葉のまま書き起こして話者名を添える。