月の木
どんな伝承か
話者の生家には月の木と呼ぶ欅があった。旧暦正月十四日の晩に、十五日の月がこの山のどのあたりから出るかを見るには目標が要るので、その欅の枝を目標にしたという。枝を基準にして北の方から出れば今年の陽気は悪かろう、南の方から出れば良かろうと昔の人が占ったことから、欅の名を月の木と付けたらしい。話者が生まれた時分にはもう木はなく、母が十五、六の頃に切ったという。枝は家の屋根まで届き、幹は三抱えも四抱えもあった。切り口の中は空洞になり、今も残る根株の中に祠が入っている。木の頭にはクダマキセという夜行性の鳥が来て鳴いたともいう。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
向原の民俗 上――昔話・伝説・怪異(民俗調査報告 第9号・第10号・民俗調査報告)
『向原の民俗 上――昔話・伝説・怪異』は、民俗調査報告の第九号・第十号にあたる向原の民俗誌の上巻から、「IX 口承文芸」の章を収めたものである。昭和五十六年から五十七年にかけて向原の話者から聞き書きした昔話十一話、伝説二十四話、天狗や狐、河童、ヒトダマをめぐる世間話二十七話のほか、富士山にまつわる諺と方言を収める。各節の初めに題名・分類・話者の生年・採集日を記した分類表を置き、話は土地の言葉のまま書き起こして話者名を添える。