讃岐満濃池の龍と比良山の天狗
どんな伝承か
今昔物語の話。讃岐国の満濃池は弘法大師が築いた大きな池で、龍が棲んでいた。ある日、龍が日に当たろうと小蛇の姿で堤にとぐろを巻いていると、近江国比良山の天狗が鳶の姿で舞い降りてつかみ去り、比良山の狭い洞に閉じこめた。水が一滴もないので龍は空を飛べず、死を待つばかりだった。やがて天狗は比叡山東塔の北谷で手を洗っていた僧を水瓶ごとさらい、同じ洞に置いていった。水瓶に残っていた一滴の水を受けて力を取り戻した龍は、僧を背負って洞を蹴破り、比叡山の坊へ送り届けた。のちに龍は、京で荒法師の姿をしていた天狗を見つけて蹴り殺したという。
原典より
其時に近江の國比良の山に住ける天狗、 の形こして其池の上を飛廻るに、堤に此小 の蟠て有るを見て、飛下て俄に掻き抓て遂に に昇ぬ。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。