越中奈古浦で見た龍の昇天
どんな伝承か
越中国射水郡奈古浦の泉田某が語った話。文化六年七月十一日、朝から雨風が激しかったが、昼過ぎに少し晴れた。沖の方はまだ薄墨のように曇っていて、その中に特に黒い雲が一筋立ちのぼり、また下りて海面すれすれのところで上下し、波にくっつくように見えた。そのうち中に小さく龍の形が見え、光がひらめいて昇っていき、そのあとは名残もなく晴れ渡ったという。土地の老人も、昔から龍が昇るのだと語っていたという。竹取翁物語解に載る話で、大蛇が洪水に乗って海に出て龍になるという言い伝えとあわせて記されている。
原典より
中にちひさく龍の形見えて光ひらめきつ 上りしが、後は、なごりなく空はれたりこ云へり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。