尾州高田村の怪火と狸
どんな伝承か
想山著聞奇集は、狸と情死しかけた飯盛女ふみの話に続けて、尾張の高田村の森のあたりでは昔から怪しいものが出て、折々人を化かし、ひどいときは脅して死なせることさえあったと記す。またこの野辺で大きな火が上がり、村々では火事だと思って火消しの道具を持ち出して駆けつけると、近寄ったところで消え失せるなど、さまざまないたずらで人を騒がせていた。正体はわからなかったが、ふみの一件の後は怪しいことが一度もなくなり、すべてこの狸のしわざだったと人々は初めて知ったという。
原典より
昔より此の森の邊に(尾州勢田在高田村)怪物有りて折々人を成し甚敷に至りては威し殺したる事間々あり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。