妙沖尼を慕った男と板築駅の芦
どんな伝承か
承和年間、板築駅で客死した橘逸勢朝臣の墳墓を守り、朝夕の勤行を怠りなく行う妙沖尼という娘があった。浜名湖畔入野の若者が板築駅を過ぎるとき、庵から聞こえる読経の声に惹かれ、勤行の手助けを申し出て三年余り働いた。やがて都から使いが来て逸勢への勅勘御赦免を伝えると、尼は父の遺器を負って都へ帰ってしまった。別れを惜しんだ男は尼の庵にしばらく住んだのち、浜名の湖に身を投じた。里人は哀れんで都の方に向けて葬った。このあたりに生える芦は皆片葉であると今に伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。