鍋の中から返事した地蔵ヶ淵の大うなぎ
どんな伝承か
地蔵ヶ淵には小出川の堰があり、あたりは真菰や葦の茂る沼地で、松が五、六本立っていた。ある日、浜之郷の農家の息子が休みを利用して堰の下へ釣りに出た。いつもはよく釣れるのに、その日はあたりがない。雲が低く垂れて雨もようになるころ、浮きがすっと沈み、糸を手繰ると一本の大うなぎが上がった。息子は喜んで持ち帰り、近所の者を呼んでぶつ切りにし、大鍋で煮つけた。その最中、台所の裏口から「地蔵ヶ淵のとね坊ヤーイ」と呼ぶ声がする。すると鍋の中の切り身が「オーイ」と答え、もとの一本につながって、大雨の流れを伝い逃げ帰ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。