井戸の底で子を抱いたお春
どんな伝承か
基肄の金麿が丘に八波という長者が住んでいた。娘のお春は十八で婿を迎えたが、何年たっても子ができない。お春は丘から小半里離れた太田観音へ日参し、満願の日には供も連れず一人で山道を登った。境内の井戸端で手を清めようとした拍子に水苔で足を滑らせ、井戸へ落ちてしまう。人里離れた山中で助けを呼ぶ声は届かず、長者の家では夜通し娘を捜した。松明を手に観音の森へ近づくと読経の声が聞こえ、古井戸を覗いた下僕は、蓮華に座って経を唱えるお春が玉のような男の子を抱いているのを見た。長者は観音の慈悲だと感謝し、大きな御堂を建てて敬ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第13巻(山中耕作・宮地武彦(執筆・整理)/荒木博之(解説)・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第13巻――北九州(福岡・大分・佐賀・長崎)』は、福岡・大分を山中耕作、佐賀・長崎を宮地武彦が執筆・整理し、荒木博之が解説を担った伝説資料集の一巻である。姫島、うつぼ舟、百合若大臣、黒髪山の大蛇退治、平家谷、炭焼小五郎、河童、白米城など、北九州四県に伝わる伝説を題目ごとに収める。各題目は口承を重んじて選んだ例話を冒頭に据え、県別の類話を梗概にして伝承地と出典名を添え、近世以後の史料を文献として抜き出す編み方をとる。