榎の二股に湧いた羽黒権現の神水
どんな伝承か
戸田の上戸田にあった羽黒権現社の裏手に、榎の大木が立っていた。根元から一丈ほどのところで二股に分かれ、そこが空洞になっていて水がたまっている。この水を神水と呼び、権現に供えられた水だとして、乳の出ない女性や病人に飲ませると霊験があると信じられ、近郷から汲みに来る人が多かったという。『遊歴雑記』によれば、この榎は三本あり、一本の水が湧かなくなると次の木に湧いたとされる。『江戸名所図会』には二股に板屋根を掛けた戸田羽黒霊泉の図があり、雨水ではなかったことがわかる。明治の神社合祀で権現社が上戸田の氷川社に移されてから、この神水を知る人もいなくなったという。
原典より
羽黒権現社の背後に榎木の大樹がある(「江戸名所図会」は椋とす)。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。