錫杖で突いて湧いた山居の弘法井戸
どんな伝承か
小森の字山居にある弘法井戸は、弘法大師が巡錫のおりに与えたものと伝えられる。昔、大師がこの地に来て、人々が下の沢から水を汲み上げているのを見て骨折りを憐れみ、錫杖の尻で地面を数回突くと水が湧き出したという。また、百姓の翁と姥がいて、姥が遠い沢へ水を汲みに行くのを見た大師が杖で土を突いたところ、出るはずがないと嘲った翁を下の沢まで押し流すほどの水があふれ出たとも伝える。この井戸は日照りでも涸れず、穢れた人が汲むと水中に虫が湧くという。藁を打つ手を止めて遠くまで水を汲みに行った老婆に、大師が井戸を授けたという伝えもある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。