稲むらの火と堤に植えた黒松の防風林
どんな伝承か
安政元年一一月五日午後四時、紀州中部に大地震が起きた。村の資産家浜口儀兵衛は高台から海水がどんどん引いていくのを見て津波を直感し、村人を避難させようと自分の田に積まれた稲むらに松明で火をつけた。寺の早鐘に村人が高台へ集まったところへ大津波が二度三度と港に迫り、村は影も形もなくなった。儀兵衛は私財を投げ出し、村人に呼びかけて広村海岸に底の幅二〇メートル、高さ四・五メートル、長さ六七三メートルの大防波堤を四年かけて築き、補強のため土手の上に黒松の防風林を二列植えた。この松は根を張り、昭和二一年の南海大地震の津波でも海水をくいとめて町を救ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。