北京の屋敷に響いた亡母の下駄
どんな伝承か
昭和一七年、私は北京で日本語教師をしていた夫のもとから子供六人を連れ、郷里の上州渋川の在・古巻へ帰った。八月末に発つとき、母は東京駅まで見送りに来て「これが生き別れじゃ」と言った。昭和一九年一〇月一六日午後七時ごろ、北京の家で戸締まりをして家族と夕食をとっていると、閉めたはずの中門が鳴り、聞き覚えのある下駄の音と衣ずれの音がした。翌日「ハハシス」の電報が届く。戦後に帰国して聞くと、母は死ぬ日の夕方、渋谷と北京の子の家を見て来たと語っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。