重兵衛さんの一家とにんにく
どんな伝承か
明治十四年、四歳の寺田寅彦は母や祖母、姉とともに郷里の小津の家に落ち着いた。門の脇の長屋には重兵衛さんの一家が暮らしていた。重兵衛さんは土地や家屋の売り買いを取り持つ仲持を生業とする、五十近い太った赤ら顔の男で、夏には裸で晩酌の膳に向かい、子どもたちを相手に話を聞かせるのを楽しみにしていた。鰹の刺身のつまに生のにんにくをかりかりかじる姿に驚いた寺田が母に尋ねると、便所が臭くなるから食べないのだと言われた。寺田は、この小さな副食物に二つの家庭の違いが象徴されていたのではないかと振り返る。晩酌の席には次男の亀さんや妹の丑尾さんも常連として加わっていた。
原典より
重兵衛さんの家では差支えのない事が自分達の家ではいけないのは、どういう訳だかと不思議に思われた。—— 怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦)
『怪異考 - 化物の進化』は、物理学者寺田寅彦が大正九年から昭和十二年にかけて雑誌・新聞に書いた随筆と談話を集めた本である。土佐の「孕のジャン」や濃尾のギバを地鳴りや空中放電で説く「怪異考」、昔の人が化物を自然現象の説明に用いたことを論じる「化物の進化」のほか、人魂、狸の腹鼓、厄年、夢判断などを科学者の目で語る。各篇の末尾に初出の年月と掲載誌名を記すが、「狸の腹鼓」だけは「単行本未収録」とのみ記す。