電車の隣席で語りだしたドイツ語の老子
どんな伝承か
中学では孔子や孟子を飽きるほど教わったが、老子には触れずに終わった。学校を離れてから何度か註釈本を買って読みかけたものの、どれも黴臭く、老子は妙にじじむさく偽善者めいた顔をしているように思えて、通読できないまま年月が過ぎた。ある日、書店の棚でウラールというドイツ人が訳した薄い『老子』を見つけ、何の気なしに買って電車に乗る。開いてみると実によく分かる。二、三十章を一息に読み、その後の何度かの電車の道中で全巻を読み終えた。ドイツ語で語る老子はもはや唐人服の貧血老人ではなく、背広にオーバーを着た明るい童顔の老人で、隣の席から爽やかに話しかけてくるのだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪異考 - 化物の進化(寺田寅彦)
『怪異考 - 化物の進化』は、物理学者寺田寅彦が大正九年から昭和十二年にかけて雑誌・新聞に書いた随筆と談話を集めた本である。土佐の「孕のジャン」や濃尾のギバを地鳴りや空中放電で説く「怪異考」、昔の人が化物を自然現象の説明に用いたことを論じる「化物の進化」のほか、人魂、狸の腹鼓、厄年、夢判断などを科学者の目で語る。各篇の末尾に初出の年月と掲載誌名を記す。