天狗の宿る大松を伐った大工の祟り
どんな伝承か
丹波国北桑田郡宇津村大字下宇津の湯浅喜之助の山に、天狗が棲むという大松があり、のちに不動明王が祀られた。凶事が続いた喜之助は山を手放そうと、明治二十四年の秋に弟小三郎の名義に移し、大松は村の大工向井市太郎に売られた。市太郎が斧を振り上げると空から待てと声がし、住まいを移すから少し待てと告げたが、構わず伐れと叫ぶと、めまいとともに斧や鋸がすべて消えた。午後に行くと道具は根元に並べてあり、怒った市太郎は松を伐り倒したが、その夜に正気を失い、のちに自ら命を絶った。小三郎とその娘も相次いで死んだ。明治四十二年、婿養子の斎次郎が祈ると妻小久の夢に以後切り株に供え物を続けると病や変異が絶えたという。
原典より
そのとき『我は此松を宿にして居るものだが、外に遷家を探がすから暫時待て』といふ声がした。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。