狐に引かれて失踪した三つの事件
どんな伝承か
陸奥守山領、いまの郡山市の一部にあたる村々に残る『御用留帳』には、心を病んだ者の記録が五十九例ある。うち乱心・狂気そのものの事例が三十一、狂気が話題として現れるだけのものが六、大酒による酒狂の事件が十六を占める。昼田源四郎が注目するのは残りで、村からの逃亡である欠落とははっきり書き分けられた、『狐に引かれ』ての失踪が三件あることだ。さらに、はじめは狐に引かれたと疑われながら結局は欠落だった例も三件ある。今日の医学でいう遁走にあたる状態が、村では狐の仕業として書き留められていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・1985年(昭和60年))
『疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情』は、精神科医の昼田源四郎が昭和六十年に著した、江戸時代の村の医療を描く本である。奥州守山領(現・福島県郡山市の一部)の『御用留帳』を主な史料に、村人の暮らし、医師と医道修行、疫病と祈禱、湯治、乱心と狐憑き、受刑者の治療、行倒れの継ぎ送り、間引きと養育手当などを、書き下した原文を引いて跡づける。序と凡例、全八章、あとがき、注、索引からなり、発行所はみすず書房である。