後藤野に現れた向かい来る偽汽車
どんな伝承か
岩手県和賀郡和賀町からの報告で、自分の所から二十里ほどの後藤野の話である。この野に汽車がかかってからほど近い頃のことで、いつも夜行のとき、汽車が野原を走っていると、あるはずのない列車が向こうからも火を吐き笛を吹いてやってくる。機関士が汽車を止めると向こうも止まり、走ればやはり走り出すという案配で、野中で思わぬ時間を取られ、とんでもない故障や過ちが出て始末に負えなかった。ある夜、機関士が思いきって、勢いこんで走ってくる汽車へこちらから乗りこんでいくと、あっけないほど手ごたえがなく消滅した。翌朝調べると、大きな古狐が数頭無惨に轢死していたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。