桔梗原に現れる偽汽車と白狐
どんな伝承か
明治三十七、八年ごろ、松本から南へ汽車が通るようになった。汽車とはどんなものかと弁当持ちで見に行く者もあったという。ところが汽車が煙を吹いて桔梗原にさしかかると、向こうから汽車がごうごうと走ってくる。一本の線路の上であるから、さあ衝突だと機関士は顔色を変えて汽車を止めた。するとどうだ、向こうの汽車はふっと消えてしまう。玄蕃丞の仕業であった。こうしたことが何度も続いたが、客を大勢乗せた汽車を止めないわけにもいかない。ある日、機関士は腹を決めてそのまま驀進させた。衝突だと思った瞬間、汽車はがくんと大きく揺れ、年経た大きな白狐を轢き殺していた。それ以来、桔梗原の狐の話は聞かないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。