線路を埋めた白い裸虫で空転した貨物列車
どんな伝承か
十四日午前零時四十五分、塩尻駅を発って名古屋へ向かう第七六六号貨物列車が、中央西線の贄川・奈良井両駅間にさしかかったところ、俄然車輪が空転しはじめて貨車が進まなくなった。調べてみると、俗にシケ虫と称する虫に似てやや大きい白色の裸虫が、およそ数十間にわたり、あたかも雪が降り積もったように軌道を埋めていた。列車はこの虫の脂肪のために空転したと判明し、甲府運輸事務所は直ちにその虫を取り寄せて研究にかかった。十数年前に北海道で鮮魚を満積した貨車から滴る油で運転不能になった例はあるが、虫のために列車が動かなくなったのは汽車開通以来はじめての珍事とされた。
原典より
十四日午前零時四十五分、塩尻駅発名古屋行第七六六号貨物列車が、中央西線贄川、奈良井両駅間に差しか入るや、俄然空転を始め、…—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。