眉を剃って撃たれたお艶の霊
どんな伝承か
泉鏡花の「眉かくしの霊」は、筆者の友人境賛吉の体験談として語られる。雪の夜、中山道奈良井の宿に泊まった境が風呂に行くと、誰もいないはずの湯殿で湯を使う音がし、白粉の香が漂って「いけません」と女の声がした。部屋に戻ると白鷺のような女が懐紙で眉を隠して似合うかと笑いかけ、境は夢うつつに空へさらわれる心地がした。料理番の伊作によれば、以前、柳橋の芸者お艶が恋人の画家にかかわる用でこの村に来た。村の桔梗ヶ原の池には眉を剃った若妻風の美しい幽霊が出ると聞き、自分も眉を落として出かけたところ、幽霊と間違えられて猟師に撃ち殺されたのだという。
原典より
その幽霊は、眉を剃った若妻風の美人だというので、眉をも剃りおとして出かけるのだが、途中、桔梗ヶ原の幽霊とまちがえられて、鉄砲でうち殺されてしまう。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。