足のない人形が生む幽霊の世界
どんな伝承か
人形浄瑠璃は人形を中心にみごとな律動を見せ、観客を現実とも幻ともつかぬ境へ誘い込む。そのとき人形は生きた人間そのものになる。端役を除いて一体を三人で遣うのが原則で、この形は享保の頃に定まったという。主遣い以外は覆面をし、左遣いは左手を、足遣いは足だけを動かす。二組の三人遣いで親子の対面が演じられると、泣きむせぶ二体をかこんで六人の遣い手が暗黒の姿のまま立ち、芸の見事さゆえにその姿は在るとも無いともつかぬものに変わる。舞台では手すりが足遣いを隠し、女形の人形にはそもそも足がなく、裾さばきだけで歩みを示す。つまり舞台そのものが幽霊の世界なのだと著者は言う。
原典より
* **第五章 近代の幽霊*** 一 足のある幽霊 〈三遊亭圓朝〉* 二 眉をかくす幽霊 〈泉鏡花〉* 三 否定された幽霊 〈森鴎外〉* 四 鈴を鳴らす幽霊 〈小泉八雲/田中貢太郎〉* 五 軍隊の…—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が著した日本文学の幽霊論である。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『今昔物語集』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じたのち、物語・説話・能と歌舞伎・近代の章を立て、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。