便所の前で切り落とされた下女の髷
どんな伝承か
明治七年三月十日の夜九時すぎ、東京本郷三丁目一番地の袋物商鈴木米次郎方の下女ぎんが、裏手にある共同便所へ行き、まさに入ろうとした時、ぞうっとする心地がすると同時に頭の髪が顔の上に振り乱れ、突然の散髪となった。ぎんは悲鳴を上げて傍らの家へ走り込み、そのまま気を失って倒れた。介抱されて正気に返り事情を語ったので便所の近傍を探索したが変わったことはなく、ただ結っていた達磨返しという髷が根元から切り落とされ、地上に転がっているだけであった。俗にいう髪切りの怪異だろうということになり、以後は白昼でもこの便所に入る者がなくなったという。
原典より
ただ、ぎんの結っていた、達摩がえしという髷が、根元から切り落されて、地上にころがっているだけであった。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。