壁に吸い込まれて消えた親友の姿
どんな伝承か
昭和十六年の秋、画家を志して本郷の下宿に暮らしていた語り手は、師のお供で郊外へ写生に出た日、描いた一枚をほめられた。うれしさのあまり、同じ下宿の親友へ知らせようと夜九時ごろ部屋へ駆け込むと、月明かりの中に黒い影がうずくまっている。親友だと分かって近づき声をかけた途端、相手は音もなく立ち上がり、恐ろしい形相でこちらを見たかと思うと、廊下側の壁へ吸い込まれて消えた。翌朝も帰らないので勤め先へ問い合わせると、前夜のうちに事故で亡くなっていた。息を引き取ったのは七時過ぎ、郷里の母も八時ごろ庭に立つ息子を見ていたという。
原典より
昭和十六年十月二十八日、当時の私は、画家志望で、東京の本郷に三人の友だちと下宿しながら某画伯のところに通っていた。—— 霊魂の謎-新版タナトロギー入門(中岡俊哉・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊魂の謎-新版タナトロギー入門(中岡俊哉・1990年(平成2年))
『霊魂の謎-新版タナトロギー入門』は、中岡俊哉が昭和四十八年刊の『タナトロギー入門』を大幅に書き改め、一九九〇年に文庫として著し直した心霊研究の本である。著者自身の霊体験から説き起こし、背後霊・地縛霊・騒霊・悪霊・淫霊などの事例、臨死体験と転生、死者の声の録音や自動書記、恐山のイタコ、心霊治療、心霊写真の鑑定を国内外の例で述べる。全五章を小見出しで細かく区切り、まえがきでは「七疑三信」という著者の調査の立場を語っている。