霧の中から助けを呼ぶ灯
どんな伝承か
漁を終えて帰りを急いでいたとき、静かだった海が夕方から霧に包まれ、日はとっぷりと暮れた。方向を失わないよう懸命に櫓を漕いでいると、霧の中からかすかに霧笛が聞こえてきた。逃げるように漕いでも霧笛は近づき、振り向くと二つとも三つとも見える灯が迫ってくる。灯の見える方から、助けてけろー、助けでーと悲痛な叫び声がして、今にもぶつかりそうになった。船頭の叫びに漁師たちは手を合わせて目をつぶり、念仏を唱えた。しばらくして目を開けると何もなく、一寸先も見えなかった霧が晴れて星空をのぞかせていた。幽霊船だったと気づき、夢中で櫓を漕いで逃げ帰ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成)
松谷みよ子『現代民話考 ― 偽汽車』を小話単位で全525話収録。汽車・船・自動車などの乗り物にまつわる現代の民話・怪談を全国から採集。狐狸が汽車に化ける偽汽車、船幽霊、タクシーに乗る幽霊などを地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明359話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。