娼婦の幽霊が出る桔梗丸
どんな伝承か
高等小学校を出た筆者は、中学へ進めという父の言葉を振り切って神戸で船に乗った。最初の船は二千五百トンの桔梗丸で、台湾航路と聞いていたのに船長も一等航海士もおらず、船内は湿っぽく陰気だった。ある晩、炊事係から聞いた話では、この船はかつて台湾航路の貨物船で、下級船員が口入屋と組んで娼婦を石炭庫に隠して密出国させようとしたが、東シナ海で台風に遭って食料も水も尽きると、泣く女たちをボイラーに放り込んで焼き殺したという。以来、船中に幽霊が出てボースン室の天井に血の足跡が付き、船長が三人続けて病死して誰も乗らなくなった。筆者は伊勢まで回航したが、幽霊には一度も会わなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。