花を欲しがった日に転覆したタンカー
どんな伝承か
昭和四十年前後、九王の家の息子の神野清明は、九十トンあまりの小さなタンカーに乗り組んでいた。九王の浜に船を着けて実家に立ち寄り、米を一俵もらって帰ることになった。ひと休みして船へ戻るとき、ふだん花などまるで気にかけない息子が、白い花の咲くコデマルとアヤメを欲しいと言う。母は盛りの過ぎた上のほうを避けて、下に咲いている枝を切って持たせた。その後、船が転覆したとの知らせが届く。さざ波も立たない穏やかな瀬戸内の海で、船は椀を伏せたように一瞬でひっくり返った。取り残された年配の炊事係も船長が自ら潜って救い出し、全員が助かったが、花の行方は分からなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。