大峯山の松林で乗った白いコートの女
どんな伝承か
長野市の飯綱高原で、昭和四十七年ごろのある冬の夜にあった話。有料道路で戸隠まで客を送ったタクシーが大峯山の北斜面にさしかかると、人家もない松林の道端に白い人影が立ち、手を上げている。若い女で、街まで連れて行ってほしいと白いコートの細い体で乗り込んだ。善光寺の裏あたりで行き先を尋ねても返事がなく、振り向くと女の姿はなく、座席が黒々と濡れていた。仲間は笑ったが、五日ほどして笑った運転手も同じ目にあい、数日寝込んだ。大峯山の松林には火葬場があり、焼かれた女の魂が家に帰りたがったのではと言う人もいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。