八丁松に立つ身投げした娘の霊
どんな伝承か
夕飯のあと、辻さんがPTA会長政本善司夫人に、トンネルで最近何か変わったことはなかったかと尋ねた。夫人は、トンネルではないがその少し先の八丁松から若い娘が身投げしたと答え、貝の川郷のM家の娘が失恋の末に投身自殺したことをくわしく話した。それはつい一週間前のことだという。辻さんは中村からバスで来たが、下川口で海岸廻りのバスがないと聞いて当惑した。貝の川まで五キロ、歩いては定刻に間に合わない。困っていると見かねた誰かが自転車を用意してくれた。とっぷり暮れた道をランプの光を頼りに慎重にペダルを踏んで行くと、全身に水を浴びたような悪寒に襲われ、体の自由が利かなくなった。俗にハカゼに打たれたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。