麻酔下の合掌と四次元の世界
どんな伝承か
昭和三十三年頃、結核で国立療養所紫香楽園に入院した中村正子の手術に、従兄の国男が立ち会った。全身麻酔をかけられ手術台で数を数えていた正子は、不意に両手を胸の上で組んで合掌する。医師は妙なことをすると言い、指をほどいて体の脇へ戻した。四時間余りの肺切除を終え、麻酔から覚めた正子は国男の顔を見るなり、いま四次元の世界へ行ってきたと語った。暗い道を進むうちに明るく輝く場所に出て、まだなすべきことがあるから帰れと告げられたのだという。正子は二年後、六度目の手術も及ばず世を去った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。