闇の一軒家の前で祖母の声が呼び止める
どんな伝承か
昭和五十一年二月、福岡県小郡市の女性が急性劇症肝炎と急性腎不全を併発し、死の淵をさまよった。深い闇の中、地平線だけがうっすらと見える世界を、重い足を引きずって一人彷徨っていた。ようやく古びた一軒の家に辿り着いて覗くと、老若男女四、五人がボソボソと話し込んでおり、一人の婦人が一緒に行かないかと誘いかけた。その時「そっちに行ったらいけん」と、けたたましい叫び声が彼女の足を留めた。祖母の声であった。声の方を探しても祖母の姿はなく、婦人も消えた。その時、家では祖母が仏壇に向かい一心不乱に祈っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。