本堂で経をあげた戦死の兄
どんな伝承か
語り手の母の実家は富良野の寺であった。母の兄は出征していたが、ある日突然、青白い顔で帰ってくると、黙って本堂へ行き経をあげはじめた。母は驚いて自分の母を呼びに行き、二人でじっと見ていたが、そのうち兄の姿はすうっと消えてしまった。後で分かったところでは、その日、兄はサイパン島で玉砕していた。サイパン島が陥ちたのは一九四四年七月で、そのときの話だという。語り手は長く信じられなかったが、今は本当だったのだと思うと語っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。