乃木夫人見返りの松
どんな伝承か
明治のころ、乃木将軍が善通寺の第十一師団長だった時分、金蔵寺という古い寺の一室に住み、毎日馬で師団へ通っていた。ある秋の夕方、子どもの学校のことなどで夫人が急に東京から寺を訪ねてきた。ところが謹厳な将軍は、夫の許しなく来る女に用はない、帰れと言い、周りが止めるのも聞かずに追い返してしまった。夫人は振り返り振り返りしながら東京へ戻っていったが、そのとき寄りかかって思わず泣いたという松が、乃木夫人見返りの松として長く語り継がれた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。