特攻隊員の予告どおり九時に来た蛍
どんな伝承か
戦争末期、知覧には陸軍の特攻基地があり、富屋という食堂には世話好きの女主人を慕って若い特攻隊員がよく出入りしていた。その一人の宮川三郎軍曹は、よその基地から出撃して機の故障で戻り、知覧からも二度出撃して帰ってきていた。彼は整備隊長にすがり、良い飛行機をくださいと泣いて頼んだという。二十年六月五日の晩、友人の滝本軍曹と連れ立って明日出撃すると別れを告げに来た宮川軍曹は、明晩九時に蛍が二匹入ってくるよと冗談めかして言った。翌日は大雨で、夜には滝本軍曹だけが戻った。皆で宮川さんの話をしていると、ちょうど九時に一匹の蛍が表から入って天井の桟に止まったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。