陸軍寮の遺体を削った正体
どんな伝承か
昭和二十年ごろ、大阪の郊外にあった鴻池新田の陸軍寮では、学徒動員された学生たちが五棟の建物に分かれて起居していた。六棟目は病院の分室にあてられ、その中に死体安置所が置かれていた。大阪市内の空襲は激しく、軍関係の負傷者が次々と運び込まれ、息を引き取る者も出た。遺体は三、四日ここに置かれたが、その間に大腿部のあたりの肉が大きくえぐり取られていることが何度かあった。学生たちは犯人を突き止めようと、柔道や剣道の有段者が夜の廊下に立った。怖さと怖いもの見たさが半々だったという。正体は近くの野良猫だった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。