淵に捨てられた子が明かした前世の借り
どんな伝承か
『日本霊異記』の話。河内国若江郡川派の里の女が子を連れて行基の法会に通うと、行基はその子を淵に捨てよと言う。子は十歳を過ぎても歩けず、泣き叫んでは乳を飲み、絶え間なく物を食べていたが、母は可愛がって育てていた。翌日も厳しく命じられた母がついに深い淵へ投げ込むと、子は水面に浮かび上がって足を踏み手をもみ、目をむいて、悔しい、あと三年取り立てて食いつぶしてやるはずだったのにと言った。行基は、母が前世で借りた物を返さなかったため、子の姿で取り立てに来たのだと明かした。
原典より
河内国若江郡川派の里に一人の女があって、その子供をつれて法会(ほうえ)にゆくと、大徳は女に、その子を淵に捨てろという。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。