富山丸が沈んだ沖から聞こえる兵の声
どんな伝承か
昭和十九年ごろ、徳之島の亀徳の沖で、沖縄へ向かっていた輸送船富山丸が敵潜水艦の魚雷を受け、炎を上げて沈んだ。数日たって釣りに出ると、裂けた人の肉が綿を張ったように、サンゴの瀬にへばりついている所がいくつもあった。夕方、潮汲みに出かけた伯母は、沖の瀬で大勢の兵士がうめくような声で呼び叫ぶのをはっきり聞いたという。それは寂しい口笛のような声だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。