日光山で聞いた慈悲心鳥の声
どんな伝承か
日光山には、じひしんと鳴く慈悲心鳥という鳥がいると聞いていた。著者は御用で三年日光に登ったが声を聞けず、大楽院や竜光院など山内の人々に尋ねると、中禅寺の奥ではいつも鳴いており、たまに日光の御宮の近くまで来ることもある、鳩ほどの羽の美しい鳥だが人里近くには出ないので見る者は稀だという。寛政のころ日光奉行を勤めた太田志州は、登山の折に中禅寺でも聞き、また新宮の祭礼の湯立ての時、大楽院の森でその声を聞いた。心の字を長く引いてかなり高く鳴く鳥で、葉陰で鳴くので姿は見届けられなかったと語ったという。
原典より
「じひしん」と心字を引候て、余ほど高く啼候鳥也。—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。